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涼宮ハルヒの分裂〜驚愕
無意識に自分の都合のいいように現実を変えてしまう高校生女子・涼宮ハルヒが主宰する学校非公認団体SOS団には宇宙人と未来人と超能力者がつどい、ハルヒから選ばれた一般人の高校生男子・キョンもその一員としてこの集まりをなんだかんだで大切に思っていた。ところがキョンの前にかつて中学で仲の良かった佐々木が、宇宙人と未来人と超能力者を引き連れて現れた。人気SFライトノベルシリーズの第9〜11巻。

最初の「〜分裂」の発売から四年ものブランクがあいてようやく「〜驚愕」が出た。その間、新聞の一面広告や、八話連続で似たような話を放映したアニメなんかが一部の話題と不評を誘いつつ、その間にコミックも含めて全世界で千六百万部以上売り上げたという。ツンデレ美少女の日常ものに結構本格的なSF要素と哲学要素を加え、京都アニメーションによるアニメ化がきっかけで大ヒットしたシリーズの最新刊。

今回はなんと話が途中で分岐し、αルートとβルートに分かれて進んでいく。αでは謎の少女からの電話を受けてから特に何の問題もなく学校生活が続いていき、ヒロインの涼宮ハルヒがSOS団長として新入団員の選抜試験を行う。もう一方のβでは謎の少女の代わりにキョンの中学時代の友人である佐々木からの電話を受け、その後キョンは佐々木の率いる偽SOS団と接触し、SOS団の鉄壁の防御であるおとなしい宇宙人少女・長門有希が寝込んでみんなで毎日看病するようになる。彼女は新たなる宇宙人勢力である通称天蓋領域からの攻撃を受けたのだった。

一応ネタバレしないように書こうと思ったけれど軽いのはいいか。今回登場する新キャラの佐々木は、語り部である高校生男子・キョンの中学時代の知り合いなのだけど、序盤に叙述トリック込みで示されるとおり美少女という設定になっている。あざとく僕っ子になっていてヒヤヒヤさせられた。こいつがしゃべるしゃべる。ものすごく論理的に、まるで西尾維新の作品に出てくる女キャラのように。かなりありえないキャラなのだけど、やっぱり自分はこういうキャラに惹かれるのであった。イラストの「いとうのいぢ」の絵もかわいい。

この佐々木が偽SOS団の首領に祭り上げられているのがちょっとワクワクした。本当に祭り上げられているといった感じで、本人はあまり詳しいことがよく分かっていない。でも彼女は論理的なので、信頼できる旧知のキョンからの言葉もあって徐々に現状を把握して考察していく。世界は現在、非常に感情的な涼宮ハルヒを中心に回っているが、本当は冷静沈着な佐々木が中心になって回るべきなのだと周りから持ち上げられる。

このあとは傲岸不遜な敵未来人の通称藤原の主導のもとに、佐々木を強引に世界の中心に据えようとするのだけど、藤原は執拗にキョンに決断を迫る。なぜ語り部のキョンの意志が必要条件なのか?涼宮ハルヒ=神というのはあくまで味方超能力者・古泉の説であって、実際に神を定めているのは語り部であるキョンなのだということなのだろうか?

もちろんキョンは藤原の要求を突っぱね、物語は最後の場面で決着が図られる。ここで初めてαルートとβルートに分かれていた意味が分かる。とても盛り上がってめでたしめでたし。

でもなあ。藤原の最後の場面での三文芝居がいまいちだった。あっと驚く真実が明かされ、というかそれは複数の時間軸の中の一つの真実であって結局噛み合わないのだけど、未来の中の一つに起きるであろう一つの悲劇が中途半端に示唆されて終わる。よく分からないので感動しそこなう。

今回の話は、既刊の中では「〜陰謀」に近いと思う。「〜陰謀」はちまちました時間移動で騒動を解決する話なのだけど、今回は時間移動の代わりに分岐がある感じ。正直、仕掛けが子供騙しだと思った。細かいプロットが実にくだらない。まあこれを言ってしまうと「〜消失」のゲームっぽい展開も同じように子供騙しなのだけど、そっちは謎解きがワクワクしたし、キョンがどん底に落とされて這い上がる展開の中で自分の本当の気持ちに向かい合っていく(最後はごまかすけど)のがとても良かった。しかしこの「〜分裂・驚愕」にはそれらの楽しめる要素が薄かった。謎は解かれるのではなく勝手に解決してしまう。誰かの明確な意志によらずに。

今回は期待させる要素や展開がいくつもあったのに、終わってみたら本筋は「〜陰謀」のような凡作だった。

佐々木はキョンに対して思わせぶりなことを言って期待させてくれたのだけど、最後にあっさりと脇に外されて退場する。彼女はヒロインになりそこなったヒロインのはずなのだけど、振る舞いとしては古泉のような思索披露の役どころを与えられている。結局彼女はどうしたかったのだろう。キョンに対する好意らしきものがちらほらと見え隠れするのだけど、彼女の性格が特殊すぎてよくわからなくなってしまっていると思う。すごく個性的で魅力的なキャラなのに寸止めを食らってる感じ。まあたぶんキョンはフラグを折ったんだろうなあ…。

敵超能力者の橘京子が、自分の力で事態を動かそうとして逆に力不足で制御不能になってただただ振り回されるのはかわいかった。でも本当にそれだけって感じ。古泉への尊敬の念なんてものも語られたりするけれど、もっと意志を感じさせる何かが欲しかったように思った。

なぜ国木田の鶴屋さんに対する思いがいまさら語られるのかよくわからなかった。谷口もなぜ周防九曜と…。

とまあ不満はあるのだけど、キョンの語り部ぶりは相変わらず魅力的で、作中ずっと緊張感があって物語に没入した。仕掛けがしょうもないと言ったけれど、この程度の仕掛けさえあればこのシリーズは十分楽しめるレベルでこれからも続いていくんだろうなあと思うと嬉しく思った。ちょっと私の中でハルヒ熱が冷めてきたのか、ハルヒの自己中心的な振舞いがハナにつくことが多くなってきたのだけど、最後にちょっとデレている。

深読みするともっとこの作品の魅力が増すかもしれない。たとえば、αルートで新入団員がキョンの隠したMIKURUフォルダを発見して黙っていてくれるのだけど、よく考えてみたらつまりこれは…。

四年のブランクがあいてもう続刊が出ないかもしれないとさえ思ったけれど、ちゃんと出てくれて十分楽しめる内容だったので安心した。
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