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428 ~封鎖された渋谷で~
製薬会社の令嬢が誘拐された。犯人が渋谷で身代金の受け渡しを行うよう要求してきたため、渋谷中央署の新米刑事・加納慎也も張り込みに動員される。彼のほかにこの事件に関わった複数の人物を操作し、絡み合った糸をほぐしながら事件の解決を目指す。サウンドノベルと題して「弟切草」「かまいたちの夜」とヒットさせてきたチュンソフトが、ハードウェアの性能向上に合わせて「街 ~運命の交差点~」に続いて出した実写ベースのテキスト型アドベンチャーゲーム。

なんか急にグーグルのニュースフィードにこの系列の作品を取り上げるステマくさい宣伝記事が上がってきたので、まんまと乗せられて急にやりたくなっていろいろと調べていたら、このゲームがSteamでセールされていて数百円程度だったので買って遊んでみた。ゲーム性はいまいちだったけど内容はとてもおもしろかった。

まずはチュートリアルとして新米刑事・加納慎也の視点で進めることになる。画面全体にテキストが表示されるのはおなじみだったけど、画像が実写なのが新鮮だった。イケメン俳優が大写しされ、こいつの独白を中心に話が進んでいく。しばらく彼自身の紹介と事件を追う描写が続いたあと、ちょっとした理由で失敗して強制的にBAD ENDになる(!)。

え?と思ったらすぐにもう一人の主人公である渋谷の若者・遠藤亜智に切り替えるよう言われるので選択すると、今度は全然違う話が始まる。こいつで進めて特定の選択肢を選ぶと、さっき加納慎也がつまずいた原因を取り除くことができ、今度はBAD ENDにならず先に進めることができるようになっている。

しょうもなー。

このゲームではいくつかの選択肢の中から一つを選ぶシーンがいくつもあるのだけど、正直ほぼ運といっていいほど事前にヒントがないので考えて楽しむことができない。

じゃあまったくの脳死ゲームかというとそんなことはなくて、BAD ENDになったときに初めてヒントが出てくるので、そのヒントをもとにどこで選択肢を選びなおせばいいのか、誰でシナリオを進めればいいのか考え、やってみて合ってたら話が進むのはちょっと楽しい。

タイムラインという機能が用意されており、各キャラの進行状況が時系列で表示され、好きな時点から話を進めなおすことができる。ちょっとした選択肢程度だったら、そこへ飛んでどれか選んでその微妙な違いの部分だけ読んだら割とすぐ反映されるので、そのあとで別のところへ飛べばその結果を確かめることができる。一方で大きく変わる選択肢の場合、いままであった展開がなかったことになるので、そこから未知の展開を味わうことになる。

チュートリアルが終わると選べるキャラが5人に増えている。前述の二人の他に、ネコの着ぐるみをかぶった女性、ふてぶてしいフリージャーナリストの男性、製薬会社の研究者の男性が出てくる。こいつらはやはり最初は全然別々の話から入るのだけど、徐々に誘拐事件との関わりが明らかになっていく。

というわけで最初はあまり気乗りしないながらもそれぞれの話を進めていき、たまに出てくる選択肢を適当に選び、BAD ENDやKEEP OUTになったら別のキャラに切り替えて進めていった。KEEP OUTというのはいったん待ちといった感じで、他のキャラで進めているうちに朱色の文字でそいつの名前を見つけたらそこからJUMPすることにより続きを進められるようになっている。あまり一人で先走らないようにするしかけなんだと思う。

ダラダラと続くのを避けるためか、作中1時間ごとに区切りが設けられていて、その間に全キャラをTO BE CONTINUE…またはENDまで持っていくことにより、同期をとって次の時間帯へ進めるようになっている。1時間クリアするごとに、日本で一時期流行った作中の一時間が実際の放送時間と一致する趣向で作られた海外ドラマ「24 -TWENTY FOUR-」の一回ごとの区切りに出てくるような演出があり、いかにもサスペンスドラマっぽい音楽とあいまってとてもかっこよかった。

進めていくうちにだんだんとこの物語にのめりこんでいった。おもしろい。それにいい話ばかりだった。

新米刑事・加納慎也には模範としている先輩刑事がいて、彼の言葉をノートにまとめていてそれが時々出てくる。こいつには恋人がいて、そいつの父親がこのクソ忙しい中に上京してくるので会うだの会わないだの、実はその父親も元刑事だっただの、でも刑事に自分の娘はやれないだの言ってくる。

渋谷の若者・遠藤亜智はかつて渋谷で一番大きなチームのリーダーだったんだけど、本当にやりたいことを見つけたので信頼のおける弟分に任せて引退していた。ところがそののちチームは荒れていき…。

フリージャーナリストの御法川実は、新聞社にいたころの先輩が小さな出版社を立ち上げたので、そこが出しているゴシップ雑誌を手伝うために各方面へ取材に奔走する。その出版社はちょっとしたアホな失敗により倒産の危機に瀕していた。

着ぐるみを着た女性は、怪しいダイエット飲料を売ろうとする調子のいい男のもとでアルバイトをしていた。ちなみにこの調子のいい男の役を、一時期テレビ番組「電波少年」で人気だった芸人「なすび」が演じている。

製薬会社の研究者をしている大沢賢治のもとに、匿名でメールと写真が送られてきた。彼の研究していたワクチンの治験が勝手に行われ、そこでたくさんの人が亡くなっているのだという。

これ以上説明しないほうがいいのであとはプレイしてみて確かめてほしいのだけど、この五人の一見なんのつながりもない話が交差し、一本の糸になりつつ、それぞれの物語として結末へと向かっていく。それだけでなく、他にもいろいろと登場人物が出てきて、そいつらにも物語があって語られる。前述の大沢の後妻という悪女(?)にも彼女なりの物語がちょろっと語られていたのを見た時点で、この作品はすごいなと思った。

脚本と演出とがそれぞれ素晴らしいだけでなく、よく噛み合っていて両輪のように物語を盛り上げていてよかった。音声はほぼ無いので文字だけで語られるのが熱いし、動く映像ではなく静止画(時にパラパラマンガのように切り替わる)なので一つ一つの場面がとても印象的だった。効果音や環境音はふんだんに使われている。すごく重要なごく一部の場面で映像が挟まれるのだけど、明らかに映像のほうが薄味だった。そこはたぶんそれを分かった上であえて映像を使っているんだと思う。

テレビドラマよりも舞台のほうが演出が濃いと言われているけれど、このサウンドノベルはさらにその舞台よりもある意味濃いと思う。この新しい表現形式での演出の濃さを利用した上で脚本と演出が練り上げられていることに感動した。たぶんこれをそのままテレビドラマや舞台にしたらダメだと思う。

エンディングがとてもきれいに盛り上がって終わる。正直自分には予定調和に感じられてそこまで感動はなかったけれど、最後にうまくパズルのピースがハマった感じがして満足感は高かった。

カナン編といって作中出てきた外国人たちの独立したエピソードがあり、これを丸々奈須きのことTYPEMOONがアニメ絵で作っている。もう完全に別作品のようだった。それなりに長く、選択肢は出てこないのでストーリーを見るだけとなる。中二臭い傭兵の話だった。それなりに楽しめなくはなかったけど、この作品にぶち込むものではないなと思った。かつてこのエピソードだけアニメ化されたことがあり、自分もちょろっと見た記憶があった。

Wikipediaを見てみたら売り上げが大手の作品にしては絶望的に低くてびっくりした。もう一度宣伝しなおせば、スクウェア・エニックスの「パラノマサイト」ぐらいには売れそうな気もするのだけど、関係者が多そうなのであまり利益にならないのかも。渋谷自体が若者の街として盛り下がってるし。

インディーゲームでこの手のサウンドノベルがもっと流行ってもいいんじゃないかと思ったけど、なんだかんだで手間が掛かるし技術もセンスも必要なので、一人で作るなら小説投稿サイトに小説を書く方が効率がいいのかもしれない。

自分はこのゲームをプレイしてよかったと思うし、よくできている作品なのでぜひプレイしてみてほしいと思うのだけど、ゲームをあまりやらない人には勧められないし、ゲームをやる小説好きにも勧めづらいし、かといって映画好きにも勧めづらいので、意外と難しい位置づけの作品なのかもしれない。
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