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同時代も歴史である 一九七九年問題
1980年前後に起きた出来事を、作者がいくつかの文献から分析してみせ、1979年に世界史が千年に一度の転換点を見せたという結論に導いた。

作者は坪内祐三という、たぶん評論家。この人は1900年代と以降の文献を元に、時代を読み解くような試みをしている。まだ評価の固まりきっていないものを相手によくやると思う。次の世代から評価される人っていうのはこういう人なのかもしれない。

作品は雑誌上で連作という形をとって行われ、それぞれが単発なため、一見とりとめのないように見える。読んでいくと作者の掴んだことがなんとなく分かってくる。これから内容を解説するが、話の順序を逆にしたい。

作者が焦点を当てた1979年というのは、ソ連がアフガニスタンに侵攻し、イランがイスラム革命を起こした時期である。この時期に何が起きたか。冷戦により覇権を争った二つの帝国の力が弱まり、世界が別の力に動かされるようになったのだという。

それは絶対的な拠り所らしい。ちょっと古臭い言葉を使えば、物語という言葉がそれに近いのかもしれないが、そもそも人々が物語を求めるのは拠り所が欲しいからだ。その具体的なものとして、よく言われるイスラム原理主義のほかに、キリスト教の原理主義について挙げているところが興味深い。

原理主義というと古臭い伝統のようなイメージがあるが、アメリカにおけるキリスト教の原理主義というのは、言ってみればキリスト教を単純に信じる能天気な民衆の、現代的なボケ具合によるものらしい。ちょっと説明が難しいが、日本で言えば急に四国への巡礼が流行ったり、父の日や母の日に何かプレゼントしたくなるような感覚に近いと思う。

だからいまイスラエルを積極的に支援しているアメリカの勢力というのは、アメリカの中のユダヤ人社会ではなく、単純に聖書の物語を信じてイスラエル建国を支持する純朴なキリスト教徒たちなのだという。だから、イスラエル国民やアメリカのユダヤ人たちはアラブ人との和平を望んでいるが、アメリカはそんな庶民の無垢ゆえに邪悪と言っていい意志によって動かされているのだと。

ここだけ説明すると、作者が単なる国際ジャーナリストに見えるが、この作者のすごいところはそれを人文科学的な側面から分析してみせることである。

まずいきなりこの本の第一章が「アンティゴネ」というギリシャの演劇の話から始めている。その筋というのが、乱暴に要約すると、世俗に従うか絶対的な拠り所に従うかというものだ。この演劇を上演した動きが1984年と2003年にあったそうだが、それぞれの背景を分析してみせている。最初にここを読んだときは何を言いたいのか正直よく分からなかった。

次が、日本のある転向作家が自分の過去を消極的にしか隠そうとせず、まるで誰かにあばかれたがっているかのようだということを書いている。飛んで山本夏彦の艶話が出てきたり、レッドパージについての話なんかが出てくる。多分作者は、世の中には暴かれたがっているものがあちこちにあると言いたいのだろうか。

作者はまた、近年の一見大きな動きとされている9・11やネオコンを取り上げ、これらは1979年頃と比べるとそんなに大きなものではないと言っている。

この本は難しい。まず、私のような読者は作者の想定している読者よりも若すぎるのだと思う。全共闘とかを例に、当時の言葉を出されてもよく分からない。ポストモダニズムがどうのと言われても、私の世代にとってはあまり生き生きした感じがしない。

それと、作者は評論家のような立場で文章を書いているが、どちらかというと文学者のようである。文学者というのは、自分の言いたいことを架空の物語に乗せて語るものだ。だから言いたいことがはっきりとまとまった形では現れてこないが、よりリアルな形で漠然と伝わってくる。作者の坪内祐三は、文献などからの事実を、なるべく自分の言葉でまとめずに活きのいいまま切り取って、必要なら補足はするが自分の言いたいことを単純な言葉にはしない。

まだ私には早かったのだろうか。面白いことに作者は、自分が若かった時に読んだ文献をあとになって成熟してから読んだときに新たに分かったことがあったということを所々で率直に語っている。こういうところからも、作者のすごさの片鱗が伺える。まあでも、もうちょっと分かりやすいほうがいいかも。この人がどのくらいの人に支持されているのかちょっと不安になる。
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