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膚の下 〔上〕
空想未来の人類は、人間と生物学的に似ているが成長を早め人造的に作ることが出来る兵士・アートルーパーを作り出していた。火星で全人類は二百数十年に渡るコールドスリープをする計画を立て、そのあいだに戦争により荒廃した地球をアートルーパーと機械で再生しようとするが、地球に居残る一派との戦いが始まり、アートルーパーの主人公・慧慈はアートルーパーとしての自我に目覚めていく。

作者は日本のSF作家として有名で作品数もあるベテランの神林長平。この作品は、去年ヒットしたSFラブコメアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の作中に人造人間(?)が読んでいた本の一つとして出てくるので、ひさびさに神林長平の作品を読むならこれかなと思って手にとって読んでみた。

結論から言うとつまらない作品だ。文庫本で上下二分冊で上巻だけで600ページ近くあるのだが、ほとんど展開が進まず物語としての面白みに欠ける。哲学的な考察も中途半端でつまらない。

まずアートルーパーという人造人間の性格が、人間にとってナイーブなものとして描かれているのだが、まずこの設定からして不自然だと私は思う。機械ならともかく、ちゃんと人間と同じ脳を持っているにも関わらず、こんなに論理偏重に育つはずがない。いくら成長・教育期間が短縮されているとしてもだ。作者は心理学のたぐいを理解していないのではないか。と思ったら巻末のほうでコンプレックスという言葉の正確な意味を知っているような記述も見られる。意図的なのだろうか。

もちろん意図的にアートルーパーを論理的に描いている可能性は高い。というのは、論理的な思考を通じて、人間というものの非論理性を浮き彫りにするという効果があるからだ。人間の感情を論理的なものから考察しているところは読者に人間について考えさせる。だがそんな作者の狙いそのものがナイーブに思えてならない。

「創造主への復讐」については少し考えさせられた。私もコンピュータで人間と同じような知能が作れたら面白いなと思うし、作れるものなら作ってみたい。だがそれは復讐なのだろうか。何かの哲学の系譜を引いているのだろうか。少なくとも上巻では不十分にしか語られていないのでよく分からない。

地球は誰のものか、という点についても考えさせられた。だが、設定があまりに大掛かりなのでいまいち考え進める気になれない。もっとシンプルな設定でも十分じゃないだろうか。

下巻で素晴らしい展開が待っているのかもしれないが、上巻のつまらなさにもう読み進める気が起きないので読むのをやめることにした。
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