| 領民0人スタートの辺境領主様 ～青のディアスと蒼角の乙女～ コミカライズ版 7巻まで |
長年志願兵として王国のために働いてきたディアスは、35歳になるころには「救国の英雄」と呼ばれ、王様から領地を与えられることになる。しかし領地だという場所に連れてこられたのは一面の大草原で、家来もお金もないまま一人放り出される。そこへ鬼人族の少女が現れる。ファンタジー小説が原作のマンガ。
自分は領地経営する作品が好きなので、何もないところから始めることを露骨に題で主張しているこの作品が気になって読んでみた。おもしろかった。
主人公のディアスは心優しい筋肉バカで、人を疑うことを知らないので自分が騙されたことに気づかず、何もない大草原に放り出されてものんびりと昼寝を始める。そこへ頭にツノを生やした鬼人族の少女アルナーがやってきて最初警戒されるのだけど、鬼人族には人が持つ悪意や善意をツノによってある程度読み取る能力があり、ディアスには善意しかないことが分かって次第に打ち解ける。
アルナーの言うままに肉牛のような生き物をたやすく狩ってきたディアスは「男気（甲斐性のようなもの）」があると言われ、結婚を迫られるようになる。最初はこういう押しかけ女房的な少女と朴訥な男とのやりとりが楽しい。
最初こんなバカな主人公で領地経営が成り立つのかと思ったけど、少女アルナーのほうはそこそこ頭がいいし、頭のいいブレーンとなるような人もやってくる。でも基本的にはあぶれ者のような人間しか来ないので、そういう人たちをどうやって受け入れて働いてもらうか工夫していくことになる。
カエル族の商人がやってきて最初カモられそうになるけれど、アルナーがうまいこと交渉していい関係を築いていく。自分たちが得をするだけでなく、商人にもある程度儲けさせて定期的に物資を運んでもらうようにするのがよかった。
ディアスは「救国の英雄」と言われるだけあって腕っぷしだけはめっぽう強いので、動物やモンスターを狩ったり襲撃者を撃退したりと大活躍するのが見ていて気持ちいい。でも村や家のことをやってくれるアルナーには頭が上がらない。アルナーも弓がうまいし隠密魔法で村のみんなを守る。
ディアスが王国からもらった領土はもともと鬼人族が治めていた場所だったのだけど、王国によって戦争で追い出された過去があった。それでも鬼人族たちは故郷であるこの草原を捨てられず、こっそり戻ってきて暮らしていた。そこへ王国からディアスがやってきたので当然警戒するのだけど、族長の婆さんはディアスの人となりを見てうまいこと丸め込んで実利を得ようとする。こういう政治的な話もあっておもしろい。
一方で王国には後継者争いがあって王子や王女たちが争い合っているのだけど、こっちのほうは少なくともこのコミカライズ版では安易な描写ばかりで、バカな王子や王女が自滅して賢い王子がそれっぽく立ち回るくらいでそれほどおもしろくなかった。ディアスがいきなり公爵位を得るというのも拍子抜けした。
お隣の領主エルダンと友好を深めていくのだけど、こいつ性格はいいけど口調の「～なの」がうっとうしいし、ディアスにベタ惚れなので少し萎えた。エルダンが王女の策略によりディアスの領地に大軍で攻めざるを得ない展開があって、本来こういう政治劇ってすごくおもしろくなるはずなんだけど、読んでいてそれほど緊迫した感じがなくてあっけなく感じた。あと、敵対的な亜人たちが襲ってくることもあったけど、こいつらちょっとバカすぎてしょうもなく感じた。
すごい細かいことかもしれないけれど、鬼人族のツノが細くて長くて折れそうなので見ていてあぶなっかしくて不安になった。長月達平「Re:ゼロから始める異世界生活」（イラスト：大塚真一郎）のレムとかラムの短いツノとか、丸山くがね「オーバーロード」（イラスト：so-bin）や伊藤いづも「まちカドまぞく」に出てくる悪魔の巻きヅノだったら丈夫そうなので安心して（？）見ていられるんだけど。
安易なおかまキャラに少しイラッとした。でも作品的には「魂が女の形をしている」とされていてLGBTにやさしい（？）。自分はなんかちがうと思ったけど。
主人公ディアスの人柄がよく現れた絵はなにげにすごくいいと思う。強さに説得力のあるガタイの良さと、おだやかで優しい性格がうかがい知れる顔つきは、読んでいてとても受け入れやすかった。アルナーも表情豊かでかわいい。あえてケチをつけると子供たちがちょっと微妙だったけれど、ほとんど気にならないしこれはこれでかわいい。
若くてかっこいい主人公が好きな人にはこの作品は受け入れられないかもしれないけれど、こういう渋くて女性を本当に尊重しているようなおっさん主人公が好きになれそうなら読んでみるといいと思う。
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