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満州と自民党

小林英夫 (新潮新書)

駄作(-30点)
2006年8月17日
ひっちぃ

岸伸介を始めとする満州国で手腕を振るった官僚や財界人らが、敗戦後に日本へ帰ってきて公職に復帰してから、満州国で実践した統制経済を日本に持ち込んで高度成長を成し遂げたことについて、満州でのことと日本でのことの関連性を中心に書こうとした本らしい。

ところが驚くべきことに、満州人脈の当時の肩書きと日本での肩書きの表すらない。まるで作者はひいきの球団のことを語るかのように、行き当たりばったりに好きな選手について感情のこもった語りを見せるだけで、これでは酒場でたちの悪い親父に捕まって無理やり往時の話を聞かされているようなものだ。

それが以下のくだりだ。

*

また、六十年頃の、彼ら満州人脈たちの肩書きを見ると面白い。
会社社長あり、大学教授あり、以下、富士山の裾野のように中堅から底広く人脈がひろがっているのがよくわかる。彼らは帰国後に、国会議員、地方都市の首長、会社社長、大学教授、官庁幹部、弁護士……などさまざまな分野に拡散し、それぞれの分野に影響をもった活動を展開していたのだ。

*

ひどい。ひどすぎる。彼らの肩書きを見ると面白い
と言っているのだから手元に資料があるはずなのに、なぜ読者に示さないのか。そりゃあんたは「よくわかる」だろうよ。「会社社長」と「大学教授」が列挙でかぶってる。適当に大学生を捕まえて卒業論文を書かせたぐらいのレベルじゃないだろうか。それでも指導教官が突っ込んで直るぐらいのものだ。編集者も一体何をやってたのか。作者はこれで早稲田の教授らしい。

もうあえて指摘するまでもなくなってきたが、題名の「満州と自民党」は内容をわずかしか言い表していない。この本の作者でも読者でもとにかく読んだ人にこう訊いてみるといい。「満州と自民党とはどんな関係があるの?」私だったらこう答える。あんまり関係ないんじゃないの、と。

満州帰りの岸伸介が、公職復帰して新党から政界復帰して保守同士合併して政争があって運良く先輩やライバルが倒れて首相になって満州の頃の人脈を人事に多少使った程度のことで、満州と自民党とが密接に関わりあっていたなどとはまったく言えないだろう。少なくともこの本からはそうとしか読み取れない。

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