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英国大蔵省から見た日本

木原誠二

まあまあ(10点)
2002年3月27日
ひっちぃ

英国に留学経験があり、日本の大蔵省に入ってから英国の大蔵省に交換派遣された著者が、英国流の視点を身につけた上で日本を見直して意見している本。

帯を見て密度の濃い体験記を期待していた私の予想ははずれた。体験記のほうがずっと面白いと思うのだけど、実際は筆者が自分の意見を語っているところの方が多い。どちらかというと、そんなに人に勧められるほど面白くはなかった。しかし、こういう言い方はなんだが、この著者の知識はさすがに自分の意見を言う資格のあるほど豊かで、読んでいて普通に興味深い知識が得られた。特に、英国やその周辺の歴史に対する知識には、え、そうだったんだ、と知的好奇心を満たしてくれる。

この本のエキスを取り出してみよう。

まず、英国の影の面が面白い。貧富の差が大きい。乞食がおおっぴらに金をもとめてくる。教育の差が大きい。有名な私学が優秀な学生を輩出する一方で、学校崩壊している公立の学校が多いらしい。最近閉鎖された小学校を「昼間安全な時間帯に見に行っ」て、落書きや窓ガラスの割れたさまはまるで「廃墟」だったと述べている。著者は多くの人から、英国は日本の、平均的に高い水準にある教育を見習わなければならない、という言葉を聞いたらしい。こんなだから、犯罪も多発しているらしい。ピーク時には、一年で九人に一人がなんらかの犯罪に巻き込まれたらしい。インフラも劣悪で、電車は「これは簡単に言えば、百本の電車が走れば十本は十分以上遅れ、そのうち一本は運行がキャンセルされるらしい。

もちろんこの本の多くの部分は、英国流の、歴史につちかわれてきた、彼らの持つ合理的な仕組みについて語っている。一方的に賞賛するのではなく、これが彼らにあったやり方であるだとか、日本は日本でそのまま取り入れるのではなく、などといちいち断った上での紹介なので、爽快さには欠けるがそれなりの説得力がある。

特に私が驚いたのは、彼らには良い意味で計画性がないとのことだった。日本人はわりと、外国の仕組みを思い切って取り入れてしまう。グランドプランを描いて、改革をするときは一気にやってしまう。ペイオフなんかも、日本とアメリカの違いをそんなに考えずに一気に導入してしまった。一方で英国は、あのサッチャーの大成功した改革でさえ、一歩一歩進められていたらしい。彼らにはグランドプランはなく、細かい妥協によって一つ一つ制度を作っていくのだそうだ。だから、彼らの制度や法律はつぎはぎだらけで、できあがっているものを見るとなるほど理路整然とした仕組みなのだが、そこにたどりつくまではまったく行き当たりばったりなのだそうだ。

私が以前読んだ英国に関する本はその名も「物語イギリス人」という本だった。その本には、スーツを発明したのがイギリス人だ、とあった。しかし英国の大蔵省ではスーツを着ている人間はいまではほとんどいないらしい。

そうそう、一つ笑い話を忘れていた。大蔵省の役人といえば日本では相当社会的地位が高いとされているようだが、英国の役人はなんと、家に早く帰りたいから昼食も昼休みもとらずに働く人が多いらしい。昼休みになっても「昼食を食べに行こうという雰囲気ではない」というのだからみんなそうなのだろうか。まさかね。

ほかにもいろいろと興味深い話はあったのだけど、書くときりがないのでこのへんにしておく。

(最終更新日: 2002年3月27日 by ひっちぃ)

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