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NHKスペシャル 沸騰都市 第三回 「ダッカ “奇跡”を呼ぶ融資」

日本放送協会

傑作(30点)
2008年7月5日
ひっちぃ

世界の最貧国だったバングラディッシュが、NGOの銀行の活躍で経済的に活気を増していく様子を報告したドキュメンタリー。海外からの注文を受けて日に日に工場が増えていく縫製業で、20年の下積みを経てNGOから無担保で資金を借りて小さな工場を興す人や、夫が倒れて一人で二畳ほどの小さな露店を営む女性が回転資金を借りて生活を立て直そうとする話など。

ネットサーフィンやゲームでもしながら適当に見ようと思って録画しておいたこの番組を見始めたら釘付けになってしまった。NHKおそるべし。

冒頭まずレンガ工場から始まる。この国の古い格言、レンガは一つでは何もできないが、積み重ねていけばいつか大きなものとなる、が象徴的に語られる。一日一千万個ものレンガ。

次のシーンはそのレンガで造られた都市部の建物。正直怖い。鉄筋コンクリートや精緻な木造建築に慣れた日本の現代人の感覚からすれば恐ろしい。もちろんちゃんと内装外装は塗られていてレンガがむき出しになっているわけではないのだけど、こんな建物の六階なんかでよく働けるなと思う。

イスラームさんはそのビルの六階に16台のミシンを運び込んで縫製工場を立ち上げる。工員の面接から始める。中古のミシンにJUKIと書いてあるのは、工業用ミシンの世界シェアナンバーワンの日本の会社の名前だ。電線も自分で引いている。一つのコンセントにミシンが八台。残りの八台は最初電力不足で使えなかった。サウジやアメリカの会社から仕事がどんどん入るのだが、最初の返済日で早くも危機に陥る。ミシンが足りない中で一生懸命努力してなんとか納品したが、仲買人が金を半分しか持ってこない。あわてて他の人に貸していた金をいくらか返済してもらってしのぐ。三ヵ月後に行ってみると工場の規模は四倍になっている。

露店の女性は夫が倒れて薬代が掛かるようになり、満足な仕入れが出来なくなったことで商品の品揃えが悪くなって売り上げがガタ落ちしていた。周りの人の多くがNGOの銀行から金を借りているのを聞いて自分も金を借りようとする。こちらは無担保ではあるが連帯責任として五人組を組まされる。しかし女性たちの結束は固く、仲間が集まってうまく金を借りることができる。定期的に返済しなければならないが、店の売り上げが三倍になって解決する。

最後は貧しい村にインターネットが来る話。情報格差が縮まったことで、世界的に農作物が値上がりしていることを知り、いままで買い叩かれてきた流通業者との交渉材料ができた。

映像を見るとこの国は貧しいんだなあと憐憫の情も沸くが、それ以上にこの国の活気は羨ましいと思った。需要があるので金を借りて事業を起こすというシンプルさ。今の日本じゃこの程度では事業は起こせない。人件費も高いし。高度経済成長期の製造業はみんなこんな努力をしていたんだろうなと思うと尊敬もするけど、その結果として今のこんな日本があるのはどうかなと思う。

ここに出てくるNGOがすごい。石油会社の重役だった人が興したらしい。二割は寄付だが残りの八割はちゃんと自分でまかなっているらしい。しかも儲かった分は貧困の解消に使っている。政府がやるべきことをNGOがここまでやってしまうところが素晴らしい。

NGOである必然性はないと思う。ちゃんとした企業体として儲けを出しながら運営することも出来るんじゃないだろうか。それは多分創業者の考え次第だったんじゃないだろうか。現にこのNGOが新たに作ったネット会社は日本や欧米の会社との合弁になっている。役員会で日本人役員が利益の追求も求めているところなんかも映している。これは別に悪いことではないし、むしろこの国にとっては必要なことだと思う。

たまたま最近の週刊文春で、日本の商用インターネットサービスのさきがけであるIIJの社長が連載しているエッセイで、投資してもらっている企業周りをした話があった。IIJはまず日本の市場をスルーしてナスダックに上場したらしい。日本では十分に理解が得られず資金が集まらなかったのだろう。日本という国のインフラに対する理解の無さへの恨み節のようなものがにじみでていた。

いま日本に何が欠けているのか、どうすれば経済は活性化するのか、ということも考えさせられた。

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