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まりあ†ほりっく 7巻まで

遠藤海成 (メディアファクトリー MFコミックス・アライブシリーズ)

傑作(30点)
2011年5月5日
ひっちぃ

かつて父と母が教師と生徒として在籍していたミッションスクールに編入してきた宮前かなこは、両親の思い出の地で学ぶという表の目的とは別に、かわいい女の子と恋人同士になるという裏の目的を持った同性愛者だった。編入前日に早速美少女の祠堂鞠也(まりや)と遭遇してときめくが、実は彼女は男で学園の経営者一族の子息だった。彼女の秘密を握ってしまったことで逆に脅迫された宮前かなこは、彼女と寮でも同室になって監視される。百合モノをパロディにしたギャグマンガ。

ちょうどいまアニメ二期が放映中で、私の大好きな今野緒雪「マリア様がみてる」に似た設定の上にぶっとんだキャラが暴れまわっていて衝撃を受け、気になって原作マンガに手を出してみた。

なにがすごいって、主人公の宮前かなこが見た目は長身の普通の女の子なのに中身が腐りきっている。普通にクラスの女の子たちと仲良くなっていくのだけど、実は心の中ではうへへと思っている。そんな彼女の本性は同室の美少女(?)祠堂鞠也に見抜かれてしまい、性別を偽って猫をかぶっている彼女から毎日いたぶられる。

そんな裏事情を知らないクラスメイトたちから、急に編入してきた分際で祠堂鞠也などと親しくしていることを妬まれて陰湿ないじめを受ける。といってもこの作品はギャグマンガなので、なぜか魚介類絡みのものが机の上や中に入れられたり、演劇部で男役をやる先輩の追っかけの女子たちから足蹴にされたりするといったお笑い系の展開に。

ほかにも色々魅力的な登場人物が登場する。祠堂鞠也に付き従うメイドの茉莉花は、主を主と思わぬ口の悪さとナンセンスギャグ的な行動を取る。なぜか年齢不詳の猫耳幼女の寮長先生は、自分のことを生徒にボスとかゴッドと呼ばせて寮内を自分のルールで治め、「廊下を走ると死にますよ〜」などと学園の影の支配者のごとき振る舞いをする。フランス人とのハーフで美形の鼎(かなえ)藤一郎神父は、神に仕える身でありながら祠堂鞠也に近づくために彼女のルームメイトである主人公の宮前かなこの世話を焼きたがる。

作者は当初この作品をラブコメにするつもりだったらしい。となると普通に考えれば、女装をいいことに学園の少女たちを手ごめにしようとする少年に反発しながらも徐々に惹かれていく主人公の少女、みたいな展開になるんじゃないかと予想するところだ。しかしこれはどうだ。女装美少女の祠堂鞠也は、主人公の宮前かなこと仲がいいねと言われて心の中で「マジかよ」と叫ぶ。救いがたい妄想が頭の中からこぼれおちる主人公の宮前かなこを冷たく突き放す祠堂鞠也。この二人の関係がとても面白い。

ごくたまにシリアスなエピソードがある。男役で人気の石馬隆顕が子供の頃に箱入り娘として育てられていたときのみじめさを回想して主人公に語ってみせるところなんかウルっときた。でもほんとうに分量としてはとても少ないので感動は期待しないほうがいいと思う。ほかにも祠堂鞠也がらみの真面目な話が出てくるけれどどうもいまいちだった。なにげに妹想いなところはちょっとよかったけれど。

絵がうまいと思う。作者は連載三作目らしいのだけど、最初から絵の完成度が高い。タイプの違う女の子が多く出てくる。祠堂鞠也の嗜虐的な感じとか、茉莉花のすっとぼけた感じが特に魅力を感じた。主人公の宮前かなこの外見も絶妙なバランスだと思う。普通にしていれば普通に見える。長身で胸が大きい。でも主人公なのに一度も表紙の絵になれないw 東京タワーとかからかわれる。ボケると全員デフォルメ顔になる。

正直当初の予定どおりラブコメにして女装少年大暴走でちょっとHなシーン満載な上に主人公との恋愛に発展していくほうが良かったんじゃないかと思うんだけど、そういうありがちな展開を突き抜けてギャグに徹しているところがなんか不思議な魅力を持っている。かと思うと爆発的なギャグは主人公の宮前かなこと祠堂鞠也と茉莉花の三人だけに留まっていて、ほかは寮長先生を除くとクラスメイトの仲良しな三人とかクマちゃん先生などといった割と常識的な登場人物(ちょっとヘンなところがある人もいるけど)が学園生活の描写を支えていてなごめる。こういう世界観を大切にしてくれるギャグマンガっていいなあ。鼻血なんかでワンパターン気味になるのはちょっとうんざりするけれど。

すごく個性的で色々と楽しめる作品だった。今野緒雪「マリア様がみてる」みたいな作品の狂信的な信者で百合モノのパロディは絶対に認めないという人でない限り、手にとって読んでみるといいと思う。

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