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ナナとカオル 15巻まで

甘詰留太 (白泉社 JETS COMICS)

最高(50点)
2015年5月5日
ひっちぃ

高校生のチビで冴えない男子・杉村薫には、文武両道で美人の幼馴染・千草奈々がいた。小さい頃はよく一緒に遊んでいたのに、いまは色々な意味で互いの距離が開いてしまっていた。薫はSMが好きで、写真集を見るだけでは飽き足らず、ついにはボンデージ衣装(拘束服)を買ってしまう。それを妄想の中で奈々に着せているのだった。このまま薫の妄想で終わるはずだったが…。SMを扱った青年マンガ。

すごい。とても大きな衝撃を受けた。SMを扱っていて、しかもものすごい直球。それでいて人の機微、気持ちの揺らめきや駆け引きの描写にあふれている。そして裸は出てこないのにすごくエロい。

とまあ感情が先行してもしょうがないので、まずは話の筋の紹介をしておく。

薫がヘンなグッズを買い集めていることを知った母親が、薫を懲らしめるためにボンデージ服の入った紙袋をそれと知らずに隣近所の奈々にしばらく預けるのだけど、中身を見た奈々が興味を惹かれてその服を着てしまう。偶然服にカギが掛かって脱げなくなった奈々が、薫のもとに助けを求める。思わぬアクシデントで奈々の上位に立った薫は、それまで優等生で美人の奈々に対して大きな引け目を感じていたのだが、奈々に対してそのボンデージ服姿を自分によく見せるように命令する。

そんな恥ずかしい体験をした奈々だったが、あくる日からなぜか気持ちが軽くなっていることに気付く。優等生としてみんなのあこがれの的として振る舞ってきた自分が知らず知らずのうちに心に張りつめていたものが少し楽になったのだ。誰にも明かせないこの気持ちだったが、幼馴染の薫にならば信用できるので大丈夫だろうと思い、体に触らずエロくないことを条件にまた同じような「息抜き」をさせてほしいと言う。

こうしてナナとカオルの秘密の「息抜き」が始まった。制服のまま首輪とリードをつけて人のいない公園を一緒に歩くだとか、体操着の上から縄で縛るだとかから始まり、行為は徐々にエスカレートしていく。薫はずっと好きだった奈々からの意外な申し出に内心歓喜するのだったが、そんな自分の想いがバレてしまったらこの関係は壊れてしまうと思い、奈々の頼みにイヤイヤながら付き合うという体でSを演じることにする。しかし続ければ続けるほど奈々のことが好きになり、と同時にこの「息抜き」以外では自分なんて彼女の足元にも及ばない卑小な存在であることを自覚して苦しみ続ける。

途中で舘涼子というボーイッシュな女の子が出てくる。薫が自分を強くしようと早朝ランニングを始めたところ、たまたまいた彼女が付き添って一緒に走るようになる。彼女は近所の女子高の陸上部で期待のエースだったのだが、協調性がないので問題を起こしてしまい一人でランニングしていたところだったのでちょうど仲間を欲しがっていた。舘はかつて奈々と陸上競技で勝負したことがあり、薫が奈々の知り合いであることを知り、奈々と勝負をするために紹介してほしいと言い出す。ところが間の悪いことに舘はナナとカオルの「息抜き」のことを知ってしまい、そんなひどいことを薫が奈々にしているなんて許せないと言い出す。それを聞いた奈々はついカッとなって、そんなんじゃないからと言って舘にも経験してみろと言う。

男一人と女二人になったことで感情のぶつかり合いがより複雑になり、物語に奥行きが出てくる。薫は本当は奈々に対してしかやりたくないのに、そう言ってしまうと自分が奈々のことを好きであることがバレてしまうので舘に対しても渋々やるはめになる。一方、売り言葉に買い言葉で舘にも体験するよう言ってしまった奈々だったが、薫が自分以外の舘に対して「息抜き」をすることに対して嫉妬してしまう。

舘がかわいすぎる。奈々は長身で肉付きがよくて巨乳でプライドが高くてその分羞恥心が強いというこの物語の正ヒロインにふさわしい造形をしていてとてもいいんだけど、逆に舘は細身でボーイッシュで貧乳で、最初は羞恥に震えていたけれど次からはあけっぴろげで自分から進んで被虐を味わおうとする。見ていて笑ってしまった。これ以上ないサブヒロインだと思う。奈々は欠かせない存在だけど、自分は舘のほうが好きになってしまった。

直接的なエロ描写はほとんどなく、普通のキスですらしないのだけど、ヘタな成人向けエロマンガよりもエロい。着衣で縛ったり、尻を叩いたり、放尿させたり、よだれを垂らさせたりする。これが一応の一般誌に載っているのがすごい。まあ一般誌でもセックスをほのめかす裸で抱き合うような描写はごく当たり前のようにあるのだけど。

シリアスな展開もある。奈々の両親は離婚していて、奈々は母親に育てられている。いい子として振る舞ってきた奈々の心の奥底にあるわだかまりを「息抜き」が揺れ動かし、奈々が両親に働きかけて良い方向にもっていくきっかけになる。また、奈々のことを遠い存在だとして自分をごまかし続けていた薫が自分の自己欺瞞に向き合わされる話がある。ただ、賞賛してばっかりなのもなんなのでちょっとだけ文句を言うと、このあたりの描写は素晴らしいながらもちょっと「雑」な感じがした。

11巻までがピークで、少なくとも既刊最新15巻までは話がちょっと脱線する。15巻なんて川上先生のサイドストーリーになってるし。ナナとカオルが互いの想いに気付いてゴールするのを残していると思うのだけど…。「息抜き」はもうエロ抜きで行けるところまでは行ってしまったように思う。犬プレイまでやっちゃったらこのあとどうなるんだろう。まさかバキュームとか食材系とかの変態系に?w 泥とかロウソクが出てこなかったけど、犬のあとでは弱すぎる。

犬といえば昔自分が合コンに参加したときに、相方の男が前の飲み屋でパクってきたコースターをカラオケ屋で取り出し、女の子二人に「これ欲しい人!」と言って頭上高く掲げて振ったら、女の子二人がまるで犬のようにはしゃいで取り合いをはじめた。酔いの回った頭でボンヤリとその様子を眺めながら、なんかいいなあ、自分にはとてもこんなことは出来ないなあ、とうらやましく思った。拘束服つけて本当に犬プレイやるのは普通の人には相当ハードルが高いだろうけれど、この程度のライトな犬プレイならそこかしこでやっていそうな気がする。

ほかに読んでいて気になった点として、縄で縛っていられるのは最大30分までと聞いた覚えがあるのだけど、どうだったのだろう。吊りのように体重が掛かるような強い縛りが30分で、そうでなければ作中にあるように二時間ぐらい大丈夫なんだろうか。安易なSMもののエロマンガだと、ずっと縛ったまま何時間も放置なんていう描写があるけれど、見るたびにリアリティないなあと興ざめする。その点この作品は、麻縄の準備の仕方など非常に本格的だった。また、ボンデージグッズの解説なんかもあってためになる。でもなんか良い意味でバカバカしくて笑ってしまった。

自分はSMものが大好きなので、この作品はもうすべての人に無条件で読んでもらいたいのだけど、きっと抵抗ある人にはどんなに勧めても読む気になれないだろうし、残念だけど仕方ないと思う。こんな回りくどいことをしなくても男女の営みは成り立つのだから。でもSMというのは普通の営みの持つ意味を分かりやすくしてくれる記号のような役割があって、理解を助けて興奮を増やしてくれるものだと思うので、その気がない人でも一度見てみるといいんじゃないかと思う。

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