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異世界建国記 8巻まで

原作:桜木桜 漫画:KOIZUMI キャラクター原案:屡那 (KADOKAWA ファミ通文庫)

傑作(30点)
2023年5月28日
ひっちぃ

孤児だった社会人男性が交通事故で死に、ファンタジー風の異世界に少年として転生した。森の中で神獣グリフォンと出会った彼は、一時的な保護を得る代わりに森に捨てられていた少年少女たちを自立へと導くよう言われる。少年はやがて国を動かすほどの存在になっていく。小説投稿サイトに書かれた小説のコミカライズ版。

異世界で建国とくればもう読むしかないということで読んでみた。とてもおもしろかった。

グリフォンの森は人々が神罰を恐れて足を踏み入れてこない場所なので、まずは子供たちだけで共同生活を行うことになる。最初は生意気だった子供たちが、前世の知識を持った主人公のことをたちまちリーダーと認めて従うようになる。

ざっとストーリーを書こうとしたけど、これ全部言っちゃうとおもしろくないと思う。なるべくぼかして書くと、三十人ぐらいの何もできなかった子供たちが、主人公に導かれてそれぞれ得意なことを身につけたり、外の世界と交流することで生活向上に必要なものを物々交換で手に入れたりする。迷い込んできた難民を受け入れたり、奴隷を買ったりして人も増えていく。ふとしたことで領主と仲良くなり、前世の知識を利用してその能力を見込まれるようになった主人公は、様々な事件に巻き込まれるうちに国の中で頭角を現していく。

この主人公は結構大人だと思う。異世界へ転生してからすぐに現実を受け入れ、もうそのまま違和感なく成熟した少年として振舞っている。子供たちをあまり子供扱いしないし、自分の精神年齢をそれほど気にしていない。主人公の成長を楽しみたい人にはちょっと物足りないかもしれない。

戦争の描写があるのだけど、主人公が前世の知識を利用して作った新兵器の数々もそこまで強くはなくて緊張感があってよかった。自分たちよりも強い侵略者からの過大な要求も落ち着いて受け入れている。これたぶん普通の異世界転生ファンタジーだったらすぐに能力で敵を蹴散らす展開になると思うんだけど、この作品では主人公が無双できるほど強くはない。矢なんかで射貫かれたら普通に死ぬと思う。

ヒロインが二人出てくる。なぜか知識が豊富な少女テトラと、街で出会った呪術師の少女ユリア。主人公は一人を選ぶのだけど、選ばれなかった一人の描写がせつなくて泣けた。

ほかにも女の子が何人か出てくるのだけど、主人公じゃなくて他の男の子とカップルになるのがよかった。それぞれいいカップルで楽しい。主人公だけじゃなくていろんな登場人物が活躍する。狩人、呪術師、騎馬、商人、建築家、冒険家、遊牧民、謀略家。

内政よりも戦争や政略の要素が強い。数十人同士の小競り合いから数万単位の戦いまである。難民をめぐって一触即発になったり、敵に計略を掛けたりする描写がある。戦争と交渉とがシームレスに描かれるのはなにげにすごいと思う。権力についてフワッとではなくしっかりと描かれているところもよかった。

世界設定が現実の世界っぽい。たぶん舞台はイタリア半島で、ギリシャみたいな場所に縁のある人物が出てきたり、ペルシャっぽい国の存在、ゲルマン人や騎馬民族が出てくる。やっぱりしっかりした作品は実際の歴史を参考にしている。

王様と王弟とがやたら仲良かったのは最初ちょっとしらけた。でもまだ中央集権化が進んでいなくて豪族同士で対立しあっているので、同じ一族同士協力しあっているからこんなものなのかもしれない。ただ、彼ら自身が主人公の前世の知識を割としたり顔で聞いているのには違和感を感じた。

絵がいいと思う。どっかで見たことあるような愛らしくてシンプルな絵で、女の子や少年はかわいいし、男たちはみんな個性的で特徴豊かだった。時々人物の見分けがつかなかったけど。

国を支えるという点ではアニメ化もされた「現実主義勇者の王国再建記」(原作:どぜう丸)と似ているのだけど、あっちが中二病全開で現実主義「風」のご都合主義的な展開が好きな人にはハマりそうなのに対して、こっちはよっぽど現実主義的でリアルな反面ちょっと地味で通好みすぎて爽快感に欠けるかもしれない。アレクサンダー大王が使っていたファランクスという陣形で無双する鷹山誠一「百錬の覇王と聖約の戦乙女」とも近いかも。

既刊分だとまだ国づくりとまではいっていないけれど、小さな集落を発展させるところから国同士の戦争まで楽しめそうなら読んでみるといいと思う。

[参考]
https://
comic-walker.com/contents/detail/
KDCW_KS11200066010000_68/

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