負けヒロインが多すぎる! 8巻まで
作: 雨森たきび, イラスト: いみぎむる (小学館 ガガガ文庫)
傑作(30点)
2025年12月25日
小柄で痩せた地味なラノベオタクの温水和彦は、ある日ファミレスでクラスのかわいい女の子がフラれるところを目撃し、それが彼女にバレてしまう。無害な男子認定されていた彼は、そんな彼女にいろいろと粘着され、なんだかんだで頼りに(?)されていく。ライトノベル。
2024年にアニメ化されて大ヒットし、原作小説まで売上ランキング上位を独占するほどの人気だったので、早いうちに読んでおこうと思って読んでみた。とてもおもしろかった。
温水くんは独白のなかでたびたび架空のライトノベル作品をチェックしているほどのライトノベル好きなのと、その名の通り(?)水道の味にうるさくて校内のいろんな場所の水飲み場で飲み分けているといった地味な男子で、当然運動も苦手で帰宅部のつもりだった。まあ実際には文芸部に入部してたのを忘れていたんだけど。
この作品のおもしろいところは、そんな温水くんがあたりさわりのない人間として、フラれた女の子たちからなぜか頼りにされていってしまうという巻き込まれ型の物語であるところだと思う。
一人目のヒロインである八奈見杏菜は、近所に住む袴田草介とは家族ぐるみの長い付き合いで恋心を育んできたが、クラスの胸の大きな転校生の女の子と付き合いだしたことを彼から告げられる。それからというものの彼から悪意のないノロケ話を聞かされ続けることになる。
人にフラれたら悲壮感がありそうなものなんだけど、八奈見さんの場合はまず怒りが先行した。ファミレスでやけ食いした八奈見さんは、お金が足りずに温水くんに立て替えてもらう。その日から返済も兼ねて温水くんに何か食べものを作って持っていくようになり、温水くんがその金額を査定しながら毎日昼食を一緒に食べつつ愚痴を聞いてもらうという奇妙な関係になる。
こうして仲良くなった(?)二人だったけれど、温水くんは自分が地味で魅力のない人間だと思っているので、八奈見さんとは立て替えたお金の返済が終了したらそれっきりになるつもりだったし、八奈見さんの問題を解決するのは自分ではないと思っていた。
この作品の特徴として「負けヒロイン」が題のとおり一人じゃないところがウケる。二人目のヒロインとして今度は陸上部のエース焼塩檸檬がやはり幼馴染の男の子である綾野光希から彼女ができたと言われて実質フラれる。三人目のヒロイン小鞠知花は、コミュニケーションが苦手な自分を文芸部に受け入れて仲良くしてくれていた部長の玉木慎太郎にフラれる。こうして温水くんの周りに次々と「負けヒロイン」が集まってくる。
さすがに1巻でこれだけ盛り盛りだと入りきらないので、まずは八奈見杏菜の物語にいったん区切りがつけられる。最初彼女はフラれた実感がなかったんだけど、徐々に現実を受け入れていく。その傍らには温水くんがいるのだった。
ここで普通の作品だったら温水くんが彼女をモノにするところなのかもしれないけれど、我らが温水くんにはそんな気持ちはない。彼女のために本気で怒ってみせたりはするんだけど、その女の子が吹き出してしまうぐらい小気味のいいノンデリっぷり(デリカシーのなさ)を発揮してしまうのだった。そういうとこだよ、温水くん!
温水くんは「鈍感主人公」なんだけど他の作品と違うのはとにかく一生懸命(仕方なくだけどw)ヒロインのために努力できて女の子を落とす寸前まで行くのにいろいろと間違えてしまうところだろうか。そんな温水くんを見て、ああこの人はヒーローなんかじゃなくて自分と同じ未熟な人間なんだなとヒロインたちは思い、シンパシーを感じて仲良くなっていくんだろう。
2巻では二人目の「負けヒロイン」焼塩檸檬から男を奪った(?)朝雲千早から相談を持ち掛けられる。なんと綾野光希が焼塩檸檬とたびたび仲良く出かけているのだという。これは「負けヒロイン」のおかわりか?朝雲千早は本が大好きな一見おとなしい女の子なんだけど、綾野光希の所持品にGPSや盗聴器を仕掛けるなど過激なことをする変人なのだった。
正直自分は焼塩檸檬の物語がよく理解できなかった。こいつも幼馴染にフラれるパターンなんだけど、綾野光希が朝雲千早と付き合い始めてからも自分の気持ちをずっと隠し続けていた。それが結局意図せず当人にバレてしまい逃亡するんだけど、そのあとどうやって立ち直ったかがよくわからなかった。
3巻で三人目の「負けヒロイン」小鞠知花の物語が区切られる。普段はおとなしくて吃音なのに温水くんには「…死ね!」などと口が悪いのがウケる。こいつの場合もうこの巻の時点で恋愛には片が付いているので、部長から文芸部を引き継ごうと努力する話になる。温水くんは彼女を支えようとするのだが…。
温水くんって問題解決方法が独特というか、本当に相手に寄り添おうとして一見間違ったことをしてしまうのがおもしろいと思う。ネタバレになるので言わないけれど、話としてもキャラとしてもそこがいいなと感じた。
4巻ではこれまで謎の無気力ギャル先輩として登場していた志喜屋夢子の過去のわだかまりを解きほぐそうとする話になる。こいつのキャラが不自然すぎて入っていけなかった。それに、生徒会役員同士のかつての不和についてもあまりピンとこなかった。
そういえば文芸部の副部長で腐女子の月之木古都が「生もの同人」つまり実在する人間同士の同性愛作品(しかも片方は性転換)を書いてそれが生徒会役員の堅物の女の子の目に触れて大騒動になる話はこの巻だっただろうか?文芸部が舞台になるだけあってみんなそれぞれ個性的な小説を書いていてそれがちょっとおもしろかった。
5巻は温水くんの妹である佳樹のブラコンぶりが暴走する。これまでもちょこちょこ登場していたんだけどあんまり目立たなかった。この巻かそのちょっと前ぐらいからこいつが温水くんのこと大好きな極端なブラコンであることが描かれる。こいつも小説を書いて文芸部の部誌に寄稿するんだけど、ガチでヤバい内容で一番戦慄したw
作中みんなが書いた短編小説がそのまま載っていて、それなりにおもしろかった。腐女子の月之木古都はなんか知らないけど三島由紀夫と太宰治が異世界転生する話を割と本気で書いていたり、小鞠は悪役令嬢もの?八奈見はそこまで本格的なものは書けないんだけどコンビニを舞台にしてデリカシーのないAくんとのちょっとしたやりとりを綴っていたりと、みんな個性的でよかった。
6巻で文芸部の部長副部長コンビの旅立ちが描かれる。あと焼塩檸檬の急接近もこのあたりの巻か? やっぱりよくわからなかった。明るくて快活な褐色のスポーツ少女ですごい好みの外見と性格をしているんだけどいまいち好きになれなかった。
7巻で新たに新入生を受け入れることとなり文芸部に来た問題児の白玉リコの話になる。こいつは完全に小悪魔キャラなんだけど、後輩としてのある程度の慎みと事件解決後の恩からそこまで生意気な感じではなくてちょっと好きになれた。このときの事件でも温水くんは彼女に対してすごくいいことを言っていて、普通に考えればちょっと頭おかしいけど(!)彼女に最大限寄り添っていて、ちょっと感動というか納得した。
8巻では生徒会長選挙を舞台に頭が硬くて融通の利かない馬剃天愛星に推薦人を頼まれる。最初は文芸部の敵として立ちはだかった彼女だったけど、なんだかんだで温水くんを頼りにするようになる。こいつは小鞠とはまた違った方向で危なっかしい子で、不器用だけど一生懸命なところがかわいい。
ほかに購入特典として書かれたSSS(ショートショートよりさらに短い短編?)を集めた巻があって読んでみたんだけど、だんだんくだらなく思えてきて三分の一ほど読んだところでギブアップした。
この作品というか作者だと思うんだけど結構露骨にキャラを作っているので正直ちょっとげんなりしてしまう部分もあった。特に八奈見さんの食いしん坊設定とかはもう読んでいても笑えなくなってしまった。でもまあ逆に言えばこの先の展開は難しくなりそうだけど安心して期待できそうな気がする。
温水くんは一体どうしたいんだろう。いままではどうしたもこうしたもなかったんだろうけど、だんだん彼の外堀が埋まってきている。
担任の甘夏先生は行き遅れ気味で生徒にあけすけに愚痴をたれる親しみやすい(?)先生なんだけど、なんか露骨すぎて全然好きになれなかった。彼女の親友で保健室にいる養護教員の小抜先生はちょいエロキャラなんだけどやっぱりそこまで好きになれなかった。生徒会長の放虎原ひばりや桜井弘人にもあんまりピンとこなかった。
ネタバレになるからくわしくは言わないけれど今後の話の展開がすごく楽しみ。最新巻で話が大きく進みそうな流れになっているから。さすがにここまでくると「そういうとこだよ温水くん」とはいかなくなってくるんじゃないだろうか。でもそうなると「負けヒロイン」たちはどうなるんだろうか。
ヘンな女が好きな人で、狙ってキャラを作りこんでるのがあまり気にならないならすごく楽しめると思うので、読んでみるといいと思う。
2024年にアニメ化されて大ヒットし、原作小説まで売上ランキング上位を独占するほどの人気だったので、早いうちに読んでおこうと思って読んでみた。とてもおもしろかった。
温水くんは独白のなかでたびたび架空のライトノベル作品をチェックしているほどのライトノベル好きなのと、その名の通り(?)水道の味にうるさくて校内のいろんな場所の水飲み場で飲み分けているといった地味な男子で、当然運動も苦手で帰宅部のつもりだった。まあ実際には文芸部に入部してたのを忘れていたんだけど。
この作品のおもしろいところは、そんな温水くんがあたりさわりのない人間として、フラれた女の子たちからなぜか頼りにされていってしまうという巻き込まれ型の物語であるところだと思う。
一人目のヒロインである八奈見杏菜は、近所に住む袴田草介とは家族ぐるみの長い付き合いで恋心を育んできたが、クラスの胸の大きな転校生の女の子と付き合いだしたことを彼から告げられる。それからというものの彼から悪意のないノロケ話を聞かされ続けることになる。
人にフラれたら悲壮感がありそうなものなんだけど、八奈見さんの場合はまず怒りが先行した。ファミレスでやけ食いした八奈見さんは、お金が足りずに温水くんに立て替えてもらう。その日から返済も兼ねて温水くんに何か食べものを作って持っていくようになり、温水くんがその金額を査定しながら毎日昼食を一緒に食べつつ愚痴を聞いてもらうという奇妙な関係になる。
こうして仲良くなった(?)二人だったけれど、温水くんは自分が地味で魅力のない人間だと思っているので、八奈見さんとは立て替えたお金の返済が終了したらそれっきりになるつもりだったし、八奈見さんの問題を解決するのは自分ではないと思っていた。
この作品の特徴として「負けヒロイン」が題のとおり一人じゃないところがウケる。二人目のヒロインとして今度は陸上部のエース焼塩檸檬がやはり幼馴染の男の子である綾野光希から彼女ができたと言われて実質フラれる。三人目のヒロイン小鞠知花は、コミュニケーションが苦手な自分を文芸部に受け入れて仲良くしてくれていた部長の玉木慎太郎にフラれる。こうして温水くんの周りに次々と「負けヒロイン」が集まってくる。
さすがに1巻でこれだけ盛り盛りだと入りきらないので、まずは八奈見杏菜の物語にいったん区切りがつけられる。最初彼女はフラれた実感がなかったんだけど、徐々に現実を受け入れていく。その傍らには温水くんがいるのだった。
ここで普通の作品だったら温水くんが彼女をモノにするところなのかもしれないけれど、我らが温水くんにはそんな気持ちはない。彼女のために本気で怒ってみせたりはするんだけど、その女の子が吹き出してしまうぐらい小気味のいいノンデリっぷり(デリカシーのなさ)を発揮してしまうのだった。そういうとこだよ、温水くん!
温水くんは「鈍感主人公」なんだけど他の作品と違うのはとにかく一生懸命(仕方なくだけどw)ヒロインのために努力できて女の子を落とす寸前まで行くのにいろいろと間違えてしまうところだろうか。そんな温水くんを見て、ああこの人はヒーローなんかじゃなくて自分と同じ未熟な人間なんだなとヒロインたちは思い、シンパシーを感じて仲良くなっていくんだろう。
2巻では二人目の「負けヒロイン」焼塩檸檬から男を奪った(?)朝雲千早から相談を持ち掛けられる。なんと綾野光希が焼塩檸檬とたびたび仲良く出かけているのだという。これは「負けヒロイン」のおかわりか?朝雲千早は本が大好きな一見おとなしい女の子なんだけど、綾野光希の所持品にGPSや盗聴器を仕掛けるなど過激なことをする変人なのだった。
正直自分は焼塩檸檬の物語がよく理解できなかった。こいつも幼馴染にフラれるパターンなんだけど、綾野光希が朝雲千早と付き合い始めてからも自分の気持ちをずっと隠し続けていた。それが結局意図せず当人にバレてしまい逃亡するんだけど、そのあとどうやって立ち直ったかがよくわからなかった。
3巻で三人目の「負けヒロイン」小鞠知花の物語が区切られる。普段はおとなしくて吃音なのに温水くんには「…死ね!」などと口が悪いのがウケる。こいつの場合もうこの巻の時点で恋愛には片が付いているので、部長から文芸部を引き継ごうと努力する話になる。温水くんは彼女を支えようとするのだが…。
温水くんって問題解決方法が独特というか、本当に相手に寄り添おうとして一見間違ったことをしてしまうのがおもしろいと思う。ネタバレになるので言わないけれど、話としてもキャラとしてもそこがいいなと感じた。
4巻ではこれまで謎の無気力ギャル先輩として登場していた志喜屋夢子の過去のわだかまりを解きほぐそうとする話になる。こいつのキャラが不自然すぎて入っていけなかった。それに、生徒会役員同士のかつての不和についてもあまりピンとこなかった。
そういえば文芸部の副部長で腐女子の月之木古都が「生もの同人」つまり実在する人間同士の同性愛作品(しかも片方は性転換)を書いてそれが生徒会役員の堅物の女の子の目に触れて大騒動になる話はこの巻だっただろうか?文芸部が舞台になるだけあってみんなそれぞれ個性的な小説を書いていてそれがちょっとおもしろかった。
5巻は温水くんの妹である佳樹のブラコンぶりが暴走する。これまでもちょこちょこ登場していたんだけどあんまり目立たなかった。この巻かそのちょっと前ぐらいからこいつが温水くんのこと大好きな極端なブラコンであることが描かれる。こいつも小説を書いて文芸部の部誌に寄稿するんだけど、ガチでヤバい内容で一番戦慄したw
作中みんなが書いた短編小説がそのまま載っていて、それなりにおもしろかった。腐女子の月之木古都はなんか知らないけど三島由紀夫と太宰治が異世界転生する話を割と本気で書いていたり、小鞠は悪役令嬢もの?八奈見はそこまで本格的なものは書けないんだけどコンビニを舞台にしてデリカシーのないAくんとのちょっとしたやりとりを綴っていたりと、みんな個性的でよかった。
6巻で文芸部の部長副部長コンビの旅立ちが描かれる。あと焼塩檸檬の急接近もこのあたりの巻か? やっぱりよくわからなかった。明るくて快活な褐色のスポーツ少女ですごい好みの外見と性格をしているんだけどいまいち好きになれなかった。
7巻で新たに新入生を受け入れることとなり文芸部に来た問題児の白玉リコの話になる。こいつは完全に小悪魔キャラなんだけど、後輩としてのある程度の慎みと事件解決後の恩からそこまで生意気な感じではなくてちょっと好きになれた。このときの事件でも温水くんは彼女に対してすごくいいことを言っていて、普通に考えればちょっと頭おかしいけど(!)彼女に最大限寄り添っていて、ちょっと感動というか納得した。
8巻では生徒会長選挙を舞台に頭が硬くて融通の利かない馬剃天愛星に推薦人を頼まれる。最初は文芸部の敵として立ちはだかった彼女だったけど、なんだかんだで温水くんを頼りにするようになる。こいつは小鞠とはまた違った方向で危なっかしい子で、不器用だけど一生懸命なところがかわいい。
ほかに購入特典として書かれたSSS(ショートショートよりさらに短い短編?)を集めた巻があって読んでみたんだけど、だんだんくだらなく思えてきて三分の一ほど読んだところでギブアップした。
この作品というか作者だと思うんだけど結構露骨にキャラを作っているので正直ちょっとげんなりしてしまう部分もあった。特に八奈見さんの食いしん坊設定とかはもう読んでいても笑えなくなってしまった。でもまあ逆に言えばこの先の展開は難しくなりそうだけど安心して期待できそうな気がする。
温水くんは一体どうしたいんだろう。いままではどうしたもこうしたもなかったんだろうけど、だんだん彼の外堀が埋まってきている。
担任の甘夏先生は行き遅れ気味で生徒にあけすけに愚痴をたれる親しみやすい(?)先生なんだけど、なんか露骨すぎて全然好きになれなかった。彼女の親友で保健室にいる養護教員の小抜先生はちょいエロキャラなんだけどやっぱりそこまで好きになれなかった。生徒会長の放虎原ひばりや桜井弘人にもあんまりピンとこなかった。
ネタバレになるからくわしくは言わないけれど今後の話の展開がすごく楽しみ。最新巻で話が大きく進みそうな流れになっているから。さすがにここまでくると「そういうとこだよ温水くん」とはいかなくなってくるんじゃないだろうか。でもそうなると「負けヒロイン」たちはどうなるんだろうか。
ヘンな女が好きな人で、狙ってキャラを作りこんでるのがあまり気にならないならすごく楽しめると思うので、読んでみるといいと思う。